日本語用論学会

20周年記念特別シンポジウム

20周年記念特別シンポジウム  SPECIAL SYMPOSIUM

テーマ: 「語用論研究の広がり―語用論の関連分野からの提言―」
講 師: 松本 曜氏(国立国語研究所)「意味論と語用論は近づいたか」
講 師: 定延利之氏(京都大学)   「民族音声学の夜明け」
講 師: 酒井 弘氏(早稲田大学)  「含意と推論の基盤を探る」
司 会: 鍋島弘治朗(関西大学)

 言語学の諸分野として一般に音声学、音韻論、形態論、意味論、統語論、語用論といった区分が挙げられますが、この区分の現状はどのようなものなのでしょうか。語用論は他分野にどのように貢献できるのか、そもそも語用論と他分野はどれくらい明確に分かれているのでしょうか、あるいはどの程度、どのように関連するのでしょうか。本シンポジウムでは、各分野の一線で活躍する講師の方をお迎えし、語用論とはどのような分野なのか、講師の方々の分野やご研究と語用論がどうかかわるかをご紹介いただくことによって、語用論の幅広さ、住み分け、今後の重要な方向性についてフロアの皆さんと共に検討したいと思います。

  導  入 10:00-10:05 (5分)
  第1講師 10:05-10:30 (25分)
  第2講師 10:30-10:55 (25分)
  第3講師 10:55-11:20 (25分)
  休  憩 11:20-11:25 (5分)
  全体討議 11:25-11:50 (25分)

 

講 師:  松本 曜氏(国立国語研究所) 「意味論と語用論は近づいたか」

70年代に語用論の研究が活発化して以来、意味論と語用論の区別の基準として考えられていたのは、1)文脈からの独立した文と、文脈の中での発話の区別、2)意味の知識と世界の知識の区別などであった。また、その区別の背景には、能力か運用か、静態か動態かという言語学の範囲に関する議論や、規則か傾向か、合成的か非合成性的かなど、言語観の対立があったと思われる。しかしながら特に認知意味論においてはこれらの区別は大きな意味を持たず、従来語用論の領域とされていた領域に意味論が入り込む形で意味論が発展してきたと言える。これは形式意味論の研究においても見られる傾向である。さらに認知言語学におけるここ10年ほどの「量的転換」により、意味論における証拠の扱いをコーパスや発話実験における使用頻度に求める傾向が顕著になり、意味論の立場からすると語用論との区別が不明確になって来たと言える。現在の研究の現状からすると、意味論と語用論は、どちらかがもう一方を含むとか、相補的な関係にあると言うよりも、部分的に重複している(重複しながら発展している)というのが正しいと言えるのではないか。意味論と語用論が近づいたかという観点からすると、意味論は語用論に近づいたとは言えると思われる(語用論が意味論に近づいたかどうかは分からない)。

 

講 師:  定延利之氏(京都大学)      「民族音声学の夜明け」

「現代日本語共通語には、しゃべり方が何種類あるのか? しゃべり分けられる態度が何種類あるのか? しゃべり方と態度の結びつきはどうなっているのか?」―この問いは、約20年前に私が或る音声情報処理研究者から受けた質問である。日本語発話行為論の中核を衝き、音声合成や対話システム開発の未来を大きく左右する、学問的にも社会的にも極めて重大なこの質問に、しかし誰がきちんと答えられるだろうか? 私自身も、解答の方針が固まったのがつい最近のことである。この講演では「口をとがらせる」話し方、「口をゆがめた」話し方、洋菓子屋の店先で若い女性の売り子が発する”twang”な発声法など、特に音声に関連する部分を取り上げる。イェルムスレウ的な「切り分け」論に反発し、エンフィールドの「民族文法」に心を寄せ、日常のコミュニケーションの観察とMRI調音動態撮像実験を組み合わせた「民族音声学」の試みを紹介したい。

 

講 師:  酒井 弘氏(早稲田大学)        「含意と推論の基盤を探る」

この発表では、語用論研究の中心テーマのひとつである含意推論が実際の発話においていつ・どのように導きだされるかを扱う。特に(1)語用論と統語論はどのように役割を分担しているのか、(2)伝統的な母語話者の直感を手がかりとする研究方法と心理学的・脳(神経)科学的な実験を実施して結果を手がかりとする手法にはどのような長所短所があるのか、という2点に焦点をあてて、近年の研究動向を紹介しつつ検討する。

具体的な含意の例としては、数量含意と因果含意を扱う予定。統語論と語用論のお話はロンドン大学の須藤靖直さんと、後半の実験のお話は中国社会科学院のルオ・インイさんとの共同研究に多くを負っています。

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