設立趣意書
言語記号は音声表現と意味内容が恣意的に結合したものであるというF. ド. ソシュールの規定から現代言語学がスタートしました。したがって、音声部門から出発し意味部門に帰着するのが言語研究の常道と見なされるようになりました。20世紀前半に始まった音声極における探求は構造言語学により音韻論として結実しましたが、意味極への考察は等閑視されました。しかし、20世紀も後半に入ると生成文法に触発されて意味面における開拓が活発となり、意味の成分分析という形で進展し、やがて生成意味論や概念意味論などの手により意味構造の解明がはかどってきました。
発話の意味は、その発話の場面を考慮に入れない限り、解釈不可能になるケースが数多くありあます。いや、発話をその状況において意味分析してこそ「生きたことば」の実相を明らかにすることができるのです。
すでに、J.L. オースティンやJ.R. サールなどの主張する発話行為を通して「ことばの力」が認識され、H.P. グライスの指摘により含意の威力、すなわち「言外の意味」が注目されるようになりました。ここに、「語用論」は言語学の一部門として、S.C. レビンソンなどにより体系化が推し進められました。さらに、語用論の分析手法を用いて皮肉や比喩を含む文学の分野への追求も可能となり、談話分析や会話分析によりそれらのルールを探り出す作業も着実に行われています。
広い視野に立てば、語用論の研究は意味論、統語論、社会言語学、心理言語学、認知言語学それに日本語を始めとするさまざまな語学教育などの活動が交差する領域を占め、21世紀へ向けての展望は洋々たるものがあります。
とくに、1993年には第4回国際語用論会議が神戸で盛大に開催され、語用論に対する認識と理解が深まり、語用論研究はますます盛んになってきています。そこで、語用論を中心テーマとする発表と研究の場を作らなければならないと考えています。すなわち、日本における語用論の研究を組織化して、研究者相互の修練と若い研究者の育成を目指し、研究発表と機関誌を通して学理の充実と拡大、および国外研究団体との交流を促進するため「日本語用論学会」の設立を呼びかける次第であります。この趣旨をご理解の上、ご参加下さるようお願いいたします。
1998年10月
設立発起人
林 宅男 林 礼子 東森 勲 井出 祥子 飯田 仁
今井 邦彦 井上 逸兵 筧 壽雄 神尾 昭雄 河上 誓作
金水 敏 児玉 徳美 小泉 保 小西 友七 久保 進
国広 哲弥 中村 芳久 中右 実 成田 義光 西光 義弘
西山 佑司 大沼 雅彦 坂原 茂 澤田 治美 柴谷 方良
杉本 孝司 田頭 良子 高原 脩 高司 正夫 土屋 俊
内田 聖二 上田 功 山梨 正明 矢野 安剛 安井 稔
余 維 (ABC順)
日本語用論学会10年の歩み
『語用論研究』11号(2009)に掲載されました、澤田先生と余先生による『日本語用論学会10年の歩み』を開拓社様の版権等の了承を得て、PDFファイルとして公開いたします。
『日本語用論学会10年の歩み』(PDFファイル)